デイサービスという言葉を聞くと、「高齢者のお世話をする場所」というイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。もちろん、その認識は間違いではありません。デイサービスは、介護が必要になった高齢者をお預かりし、一日を安全に過ごせるように支援する仕事です。
ただ、デイサービスの役割は、高齢者を一日預かってお世話をすることだけではありません。デイサービスの仕事は、利用者本人と家族が、できるだけ無理なく自宅での生活を続けられるように支えることです。
僕自身、介護業界に入る前に両親がしていた祖母の介護を手伝っていた経験があります。その時にデイサービスが家族にとってどれほどありがたい存在になるのかを身をもって経験しました。
この記事では、デイサービスを「高齢者のお世話をする場所」と考えている介護職員や、これからデイサービスで働こうとしている人に向けて、デイサービスの本当の役割を現場目線で、そして家族目線で伝えていきます。
デイサービスは「高齢者のお世話をする場所」だけではない
デイサービスの仕事は、どうしても入浴や排泄、送迎、レクリエーションといった目の前の業務に意識が向きやすいものです。ただ、それぞれの業務をこなすことだけに意識が向いてしまうと、デイサービスが本来支えているものが見えにくくなります。
目の前の業務だけでは見えない役割がある
介護の仕事に入ったばかりの頃は、どうしても目の前の業務に意識が向きます。今日は何人入浴するのか、誰に排泄介助が必要なのか、レクリエーションは何をするのか、送迎はどのルートなのか。現場は忙しいので、最初はそれだけで精一杯になります。
現場で働く以上、日々の業務を確実に行うことは欠かせません。ただ、入浴介助が終わった、レクリエーションが終わった、送迎が終わったというだけでは、デイサービスの仕事を十分に捉えられていないと思います。
利用者は夕方になれば自宅へ帰りますが、その人の生活はデイサービスの外でも続いています。職員として大切なのは、目の前の業務の先にある利用者の生活を想像することです。
その日の支援は、すべて在宅生活につながっている
デイサービスで受ける支援は、自宅に帰ってからの生活にもつながっています。デイサービスで入浴できれば、家族が自宅の浴室で介助する負担を減らせます。日中に体を動かせば、自宅だけで過ごしているより活動する機会を作れます。
決まった曜日に外へ出て、人と話し、一日を過ごして自宅へ帰ることも、その人の生活の一部です。デイサービスで行っていることは、施設の中だけで完結しているわけではありません。
だからこそ職員には、「今日は何をするのか」だけでなく、「この支援がその人の生活にどう関わっているのか」という視点も必要だと思っています。
デイサービスの基本は、生活を支える介助にある
デイサービスの役割はお世話だけではないといっても、介助そのものを軽く考えているわけではありません。入浴や排泄、移動など、日常生活に必要な介助はデイサービスの大切な仕事です。
ただ、その介助はデイサービスの中だけで完結するものではありません。自宅では難しくなってきたことを支えることで、利用者がその後も自宅で生活を続けていくことにつながります。
入浴介助・排泄介助・移動介助は生活を守る支援
デイサービスでは、身体介助などが日常的に行われます。介護が必要になった方をお預かりし、必要に応じて身体を支えたり、移動を手伝ったり、トイレや入浴の介助を行ったりします。
特に入浴は、自宅で続けることが難しくなりやすい介助の一つです。浴室には段差があります。浴槽をまたぐ動作もあり、濡れた床では転倒する危険もあります。家族が身体を支えながら入浴を介助する負担はかなり大きくなります。
デイサービスで安全に入浴できれば、本人は清潔を保つことができ、家族が自宅で無理に介助する必要も減ります。排泄介助や移動介助も同じです。安心してトイレに行けること、安全に移動できること。その積み重ねが、利用者の生活を支えています。
「全部やってあげる」ことが介助ではない
介助というと、職員がすべて代わりにやってあげることだと思われることがあります。しかし、デイサービスの介助は「全部やってあげること」ではありません。大切なのは、できる部分をなるべく残していくことです。
職員が先回りして何でもやってしまえば、その場は早く終わるかもしれません。忙しい現場では、その方が効率的に見えることもあります。ですが、それを続けると、本人が自分で動く機会を減らしてしまうことがあります。
だからこそ、できない部分は支えながら、できることはできるだけ続けてもらう。という視点が必要になります。デイサービスの介助は、単なるお世話ではなく、その人らしい生活を続けるための支援です。
デイサービスは生活リズムと人とのつながりを作る
デイサービスの役割の中で、意外と見落とされやすいのが、生活リズムと人とのつながりを作ることです。人と会い、活動すること自体が、生活に変化を作るきっかけになります。
朝起きて外に出る予定が生活にメリハリを作る
デイサービスを利用する日は、朝起きて身支度をし、送迎の時間を待ちます。一見当たり前のことに見えますが、自宅で過ごす時間が長くなると、この生活リズムは崩れやすくなります。
予定がなければ起きる時間が遅くなり、外出もせず、身体を動かす機会も減りやすくなります。「今日はデイサービスへ行く」という予定があるだけでも、朝起きて活動を始める理由になります。
迎えに行き、声をかけ、事業所で受け入れ、日中を過ごしてもらい、夕方に自宅へ送る。この一連の流れが、利用者の生活にメリハリを作ります。デイサービスの送迎や受け入れは、ただの移動や受付ではなく、生活のリズムを支える仕事でもあります。
人と会うことが、孤立予防や生きがいにつながる
介護が必要になると、それまでのように自由に外出することが難しくなる方もいます。一人暮らしであれば、一日ほとんど人と話さずに過ごすこともありますし、家族と同居していても、日中は一人で過ごす時間が長くなることがあります。
会話や外出が減ると、気持ちが沈みやすくなったり、生活に張りがなくなったりします。だからこそ、デイサービスで職員や他の利用者と顔を合わせ、話す時間には大きな意味があります。
顔なじみの人と会う、活動に参加する、一緒に笑う。「あの人がいるから行きたい」と思えることもありますし、職員との何気ない会話を楽しみにしている方もいます。人と会う楽しみが外に出るきっかけになり、大切な社会とのつながりになります。
レクリエーションもデイサービスの大切な仕事
デイサービスのレクリエーションは、利用者に楽しい時間を過ごしてもらうための大切な仕事です。ただ、レクリエーションは単なるお遊びではありません。デイサービスにおけるレクリエーションには、自立支援としての意味があります。
体を動かす機会を作ることも支援になる
高齢になると、自宅で過ごす時間が長くなります。外出が減ると、歩くことや立ち上がる回数も少なくなり、活動量が落ちやすくなります。
体操やゲームの中で、立つ、歩く、腕を動かすといった動作を取り入れることは、自然に身体を動かすきっかけになります。自宅ではあまり動かない方でも、周囲の人と一緒なら参加することもあります。
職員としては、レクリエーションを「遊び」だけではなく、「体を動かすきっかけを作るもの」と考えることも大切です。それは、利用者の身体機能を保ち、在宅生活を続けるための支援につながっています。
楽しみや刺激が意欲にもつながる
レクリエーションでは、身体を動かすだけでなく、考える、思い出す、人の話を聞く、笑うといったさまざまな刺激があります。人と一緒に活動することで、自然に会話が生まれることもあります。
そして、「今日も楽しかった」「また行きたい」と思えること自体も大切です。デイサービスへ通うことが楽しみになれば、外へ出て人と関わる機会を続けるきっかけにもなります。
レクリエーションは、利用者に楽しんでもらいながら、身体や気持ちの面からも生活を支える大切な仕事の一つです。
家族の介護負担を支えることもデイサービスの大きな役割
デイサービスの役割を考える時、利用者本人だけを見ていると見落としやすいものがあります。それが、家族への支援です。デイサービスは利用者本人のためのサービスですが、家族の介護負担を軽くすることにもつながります。
祖母の介護を通して感じた家族の介護負担
僕自身、介護業界に入る前に、祖母の介護を手伝っていた時期がありました。本格的にすべてを担っていたというより、両親が行っていた介護を僕も手伝っていたという感覚です。
当時、父親は定年退職しており、母親は仕事に出ていました。そのため、日中は父親が食事の支度などをしながら、祖母の面倒を見ていました。
僕も、排泄の失敗があったときには祖母をお風呂に入れるなど、できる範囲で介護を手伝っていましたが、日中の介護を中心になって担っていたのは父親です。
父親は介護に慣れていたわけではありません。しかも、自分の母親の介護です。身体的な負担だけでなく、精神的にもかなり大変だったと思います。一時期には、「自分のほうがおかしくなってしまいそうだ」というようなことを口にするほど疲れていました。
デイサービスを利用することで、家族にも余裕が生まれる
それまで家族だけで祖母の介護をしていましたが、途中からデイサービスを利用するようになりました。利用を始めてから、父親の介護負担が大きく減ったことを家族として実際に見ています。
数時間でも介護から離れられれば、その間に用事を済ませたり、身体を休めたりできます。何か特別なことをしなくても、介護のことを考えなくていい時間があるだけで気持ちは違います。
在宅介護を続けていくためには、介護する家族にも休める時間が必要です。その経験から、僕はデイサービスというものが本当にありがたい存在だと感じました。
祖母自身もデイサービスへ行くことを楽しみにしていた
もう一つありがたかったのは、祖母自身がデイサービスへ行くことを楽しみにしてくれていたことです。家族が休めても、本人が毎回嫌がっていたら、送り出す側もつらい気持ちになります。
祖母が楽しみに通っていたからこそ、父親も安心して送り出すことができました。祖母には外へ出る楽しみができ、その時間に父親は介護から少し離れることができました。
僕はこの経験から、デイサービスは利用者本人だけではなく、その家族も支えるものだと感じています。この感覚は、介護職員として働くようになってからも変わっていません。
デイサービスは「介護される場所」だけではない
デイサービスでは介助も行いますが、それだけを目的にした場所ではありません。「デイサービスに通う=介護される」というイメージが強いと、利用する本人も必要以上に身構えてしまうことがあります。
介護保険が始まった頃は、今ほど一般的ではなかった
祖母がデイサービスを利用していた頃は、介護保険制度が始まってまだ数年しか経っていない時期でした。
今のように、本人や家族が必要だと感じたときに、生活を支えるためにデイサービスを利用するという感覚は、まだそれほど一般的ではなかったように記憶しています。
今ではデイサービスに通うことも珍しくありません。それでも、「介護が必要になった人がお世話をしてもらう場所」というイメージを持っている人はいると思います。
しかし、僕自身は祖母の利用を通して、デイサービスに支えられたのは本人だけではないと感じています。祖母が楽しみに通い、その時間に父親が介護から離れられたように、「家族にとっても大きな支えになる場所」です。
デイサービスへ通うことを知られたくない人もいる
介護サービスを利用することを、「国や他人のお世話になること」のように感じる方もいます。自分はまだそこまで老いていない、介護される立場だと思われたくない、という気持ちを持つ人がいても不思議ではありません。
実際、僕がデイサービスで働いていたとき、送迎車についているデイサービスのステッカーを外してほしいと言われたことがありました。近所の人に、デイサービスを利用していることを知られたくないという理由でした。
デイサービスへ通うことが、その人にとって「介護されるようになったことを周囲に知られる」ように感じられていたのだと思います。だからこそ、デイサービスを介護してもらうためだけの場所として捉えないことが大切だと感じています。
「行かなければならない場所」ではなく「行きたい場所」を作る
僕は、デイサービスはもっと「遊びに行くところ」くらいの感覚で利用してもらってもいいと思っています。もちろん、介助や安全管理を軽く考えるという意味ではありません。
人に会える、話ができる、お風呂に入れる、好きな活動がある、職員に会うのが楽しみ。お世話をしてもらうためだけではなく、その人なりの楽しみがあって通う場所でもいいはずです。
僕が大切だと思っているのは、「行かなければならない場所」ではなく「行きたい場所」を作ることです。本人が気軽に、楽しみに通える場所になれば、家族も安心して利用してもらえます。
デイサービスに通うことが、「介護されるほど衰えた」という印のように受け取られる必要はないと思っています。本人にも家族にも役立つ場所だからこそ、もっと気軽に利用できる場所であってほしいと思います。
デイサービスの役割は本人と家族の在宅生活を支えること
デイサービスには、入浴や排泄などの介助だけでなく、活動する機会や生活リズム、人とのつながりを作り、家族が介護から離れられる時間を生み出す役割もあります。
日々の介助や活動は、その場だけで終わるものではなく、さまざまな形で利用者と家族の在宅生活を支えています。
目の前の一日だけではなく、その先の暮らしを見る
僕自身、介護業界に入る前に祖母の介護を手伝い、家族としてデイサービスに助けられました。その後、介護職員や相談員、管理者として働く中でも、多くの利用者と家族に関わってきました。
だからこそ、デイサービスの役割は「高齢者を一日預かってお世話をすること」だけではないと感じています。本人が自宅で暮らし続けることと、それを支える家族の生活まで含めて考える仕事です。
入浴介助も、送迎も、レクリエーションも、何気ない会話も、その場だけで終わるものではありません。その先にある本人と家族の暮らしまで支えることが、デイサービスの大きな役割だと思っています。
