介護職員の離職理由として、「人間関係が1位」と言われることがあります。実際に、介護労働実態調査でも、直前の介護関係の仕事を辞めた理由として「職場の人間関係に問題があったため」が最も高い結果として出ています。
ただ、この結果だけを見て「介護職は人間関係で辞める仕事」と考えるのは誤解があると思っています。この記事では、調査データの見方と、現場・採用・管理者・経営側から見てきた介護職の離職理由の実態を分けて考えていきます。
介護職員の離職理由は「人間関係が1位」は本当か
介護職の離職理由として、「職場の人間関係」はよく取り上げられます。介護の仕事に興味がある人でも、この話を聞くと「やっぱり介護職は人間関係が大変なのか」と不安になるかもしれません。
まずは、その見方がどこから来ているのかを確認します。人間関係で辞める人がいるのは事実ですが、それだけで介護職の離職理由全体を説明できるかは別の話です。
介護職は人間関係で辞めると言われやすい
介護職は、人との関わりが多い仕事です。利用者との関わりだけでなく、職員同士の連携も多く、介護職員、相談員、看護職、機能訓練指導員、管理者など、さまざまな立場の人と一緒に働きます。
そのため、職場の雰囲気が悪かったり、職員同士の言い方がきつかったりすると、働きにくさを感じやすいのは事実です。僕自身も、現場や管理者の立場で、人間関係を理由に辞める人を見てきました。
ただし、ここで大事なのは「人間関係で辞める人がいる」という話と、「介護職の離職理由は人間関係が一番の問題だ」という話を分けて考えることです。
調査データでは職場の人間関係が1位になっている
公益財団法人介護労働安定センターの令和6年度「介護労働実態調査」では、直前の仕事が介護関係だった人の退職理由として、「職場の人間関係に問題があったため」が最も高くなっています。
この結果だけを見ると、「介護職員は人間関係で辞める人が多い」と受け取るのは自然です。データとしてそう出ている以上、その見方が完全に間違っているわけではありません。
ただ、この調査を見るときに大事なのは、誰に聞いたアンケートなのかという部分です。どのような前提で取られたデータなのかを確認しないまま読むと、介護職員が離職する本当の理由が見えにくくなります。
介護労働実態調査は「誰に聞いているか」が重要
介護労働実態調査は、介護業界を知るうえで参考になる資料です。ただ、離職理由を見るときは、調査を回答している人を確認する必要があります。ここを飛ばしてしまうと、「介護職を辞めた人全体の声」として認識してしまいます。
回答しているのは現在も介護職として働いている人
このアンケートは、辞めた人本人に直接送られているわけではありません。まず介護事業所に調査の案内が届き、そこから現在その事業所で働いている職員にアンケートが渡される流れです。
つまり、回答しているのは、今も介護事業所で働いている人です。前の介護職を辞めた経験があっても、現在はまた介護職として働いている人の回答になります。
ここが、この調査を見るうえでとても大事な前提です。前の職場は辞めたけれど、介護の仕事自体は続けている人に聞いているということです。
介護職そのものが嫌で離れた人の声は入りにくい
介護職そのものが合わないと感じて辞めた人は、その後に介護業界ではなく、別の仕事を選ぶことがあります。そうなると、現在の介護事業所で働いている職員に渡されるアンケートには答える機会がありません。
つまり、この調査には「前の職場は辞めたけれど、今も介護職を続けている人」の声は入りやすい一方で、介護職そのものから離れた人の声は入りらなくなります。
調査データの結果は「介護職を辞めた人全員の理由」ではなく、今も介護職として働いている人の回答として見る必要があります。
アンケートの仕組みを知らないと受け取り方を間違える
退職理由は、用意された選択肢の中から選ぶ形になります。病気や高齢、家族の介護や看護、定年や雇用契約終了、家族の転勤や事業所の移転など、いくつもの項目があります。
その中から選ぶ以上、回答者は自分の理由に近い項目を選びます。もちろん「その他」もありますが、多くの人は用意された選択肢の中から答えるはずです。
この仕組みを知らずに順位だけを見ると、「人間関係が1位だから、介護職の一番の問題は人間関係だ」と考えてしまいます。しかし実際には、誰に聞いたのか、どの選択肢から選んだのかまで見て判断する必要があります。
人間関係が1位になりやすいのは自然な流れ
今も介護職として働いている人に、前の介護職を辞めた理由を聞けば、人間関係が上位に来るのは自然です。なぜなら、その人たちは介護の仕事そのものは続けているからです。
前の職場は合わなかったけれど、介護の仕事は続けたい。そういう人たちに聞けば、人間関係や運営方針、収入への不満が上位に出やすくなります。
「自分に向かない仕事だった」が少なく見える理由
介護職そのものが合わないと感じて辞めた人は、その後に介護職を選ばない可能性があります。現在も介護職として働いている人に渡されるアンケートには、そもそも答える機会がありません。
そのため、「自分に向かない仕事だったため」という回答が少ないのは、調査の前提を考えると自然です。介護が自分に向かないと感じた人ほど、このアンケートの回答者に入りにくいからです。
ここを見落とすと、「介護職は向き不向きが少ない仕事なのか」と受け取ってしまうかもしれません。しかし実際には、仕事内容そのものに向き合った段階で、自分には難しいと感じて早期に辞める人もいます。
「他に良い職場があった」は本当の理由とは限らない
退職理由には、「他に良い仕事・職場があったため」という項目もあります。ただ、これはそのまま退職理由として横並びに見るには少し注意が必要だと思っています。
他に良い職場があったから辞めたとしても、前の職場を辞めようと思った背景には、別の不満があった可能性があります。人間関係、収入、休みづらさ、運営方針への不満などです。
つまり、「良い職場があった」は、辞めた直接の理由というより、転職先を選んだ理由に近い面があります。選択肢にあるから選ばれている部分もあると考えた方が自然です。
介護職に限らず離職理由は人間関係が上位に入りやすい
同じ仕事を続けたいけれど、前の職場は合わなかった。このような転職は、介護職だけに限りません。飲食店でも、販売職でも、事務職でも起こります。
そのようなときに退職理由としてあげられるのは、人間関係、収入、働き方、会社の方針になるのは自然なことです。介護職だから特別に人間関係だけが問題になるわけではありません。
だからこそ、「人間関係が1位」という結果は事実として見ながらも、それを介護職全体の特徴として決めつけないことが大切です。
現場では人間関係を感じる前に辞める人もいる
ここからは、現場で見てきた話です。人間関係で辞める人がいる一方で、人間関係を感じる前に辞める人もいます。
特に未経験で介護の仕事に入った人の場合、最初に向き合うのは職員同士の関係ではなく、介護の仕事内容そのものです。
夜勤研修の途中で退職を申し出た新人職員
夜勤の仕事を研修していたときの話です。大学生の男性が夜勤のアルバイトに応募してきて、僕が一緒に入って仕事を教えることになりました。
介護の夜勤は、一般的な夜勤の仕事と比べると勤務時間が長めになることがあります。その分、1回あたりの給料は高くなりやすく、未経験でも応募してくる人はいます。
その男性と夜勤に入りましたが、日をまたぐ前、まだ夜12時前の段階で「もう辞めます」と言われました。その日が初めての勤務で、仕事を始めて数時間しか経っていないタイミングでした。
僕は「それでもいいけれど、せっかく来ているのだから、あとは僕がやるので一度最後まで見てみたらどうか。朝までいれば1日分の給料も出るし、電車が動いてから帰ればいいのではないか」と伝えました。
しかし、その職員は「もう自分に介護が無理なのは分かりました。朝までいても意見は変わりません。ここで勤めることはないと思うので、できれば今帰らせてほしい」と言われ、その場で退職という形になりました。
排泄介助など現場の現実で判断する人もいる
その職員が、なぜ数時間で辞めると判断したのかは本人にしか分かりません。ただ、その時点では、まだ身体介助で大きな肉体的負担がかかる段階までは教えていませんでした。
僕の推測になりますが、おそらく排泄介助の部分で無理だと判断したのではないかと思っています。普通に生活していれば、自分以外の人の排泄物を処理する機会はなかなかありません。
おむつ交換では、利用者が寝ている状態で介助を行います。肉体的な大変さもありますが、精神的な負担もあります。においもあります。初めてその場面に直面すれば、強く負担を感じる人がいても不思議ではありません。
もちろん、その男性が本当にそこを理由に辞めたかは分かりません。ただ、数時間の仕事内容の中で「これ以上続けることはできない」と判断する何かがあったのは間違いありません。
1日で辞める人は人間関係が理由とは考えにくい
夜勤の研修は何人もしてきました。数時間で辞めると言ったのはその男性だけでしたが、1日終わってから辞める人は、1人や2人ではありませんでした。
その夜勤体制は、基本的に1人体制でした。研修中は僕が教えていますが、他の職員との人間関係ができる前に辞めています。そう考えると、人間関係が理由とは考えにくいです。
このように、現場では人間関係以外の理由で辞めている人も見てきました。特に早期退職では、仕事内容そのものが合わなかった、思っていた仕事と違ったという理由が大きいと感じています。
介護職の離職理由は人間関係だけでは語れない
人間関係で辞める人がいるのは事実です。しかし、それだけを強調しすぎると、介護職の本当の大変さや向き不向きが見えにくくなります。
介護職は人手不足の業界なので、応募すれば採用されやすいと考える人もいます。しかし、採用されやすいことと、仕事が楽であることは別です。
介護職は楽な仕事だと思って入るとギャップが大きい
介護職は、やる気を持って学べば未経験からでも働ける仕事です。特別な人だけしかできない仕事だとは思っていません。
ただし、軽い気持ちで始められるほど楽な仕事ではありません。排泄介助、入浴介助、移乗介助、認知症の方への対応、家族対応など、現場には知らなければ分からない大変さがあります。
「人手不足だから簡単に採用されるだろう」「誰でもできる仕事だろう」と思って入ると、現場とのギャップが大きくなります。そのギャップが早期退職につながることがあります。
早期退職では仕事内容そのものが理由になることも多い
採用されてから数日、数週間、数ヶ月で辞める人の中には、「自分には難しい」と言う人がいました。この「難しい」は、仕事を覚えられないという意味だけではありません。
介護という仕事そのものが思っていたより大変だった。身体的にも精神的にも、自分には続けられないと感じた。そういう意味での「難しい」です。
人間関係で悩むには、ある程度その職場で働く時間が必要です。早期に辞める人の中には、人間関係を感じる前に仕事そのものに向き合って辞める人もいます。
人間関係だけに注目すると本質を見落としやすい
「介護職は人間関係が大変」とだけ考えると、転職を考えている人は「自分は人間関係なら大丈夫」と思うかもしれません。
しかし、介護職で大事なのは人間関係だけではありません。仕事内容を理解しているか、排泄介助や身体介助を仕事として受け止められるか、勤務体制や職場の余裕を確認しているかも重要です。
介護職を選ぶなら、調査結果の順位だけで判断せず、仕事の中身まで見ておく必要があります。そこを見ないと、入職してから「思っていた仕事と違った」と感じやすくなります。
本当に見るべきなのは職場環境と待遇
離職理由を考えるとき、人間関係は確かに大事です。ただ、現場で見ていると、人間関係だけが単独で悪くなるというより、職場環境や待遇の悪さが人間関係に影響していることも多いです。
休みが取りにくい、人手が足りない、給料が仕事内容に見合わない。こうした状態が続くと、職員に余裕がなくなり、その余裕のなさが職場の雰囲気にも出てきます。
休みやすさは職場の余裕を表す
職場定着に効果があった取り組みとして、「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が1位になっています。これは現場感覚としてもかなり近いです。
休みが取りやすい職場は、人員にある程度の余裕があります。誰かが休んでも、すぐに現場が回らなくなる状態ではありません。
常にギリギリの人数で回している職場では、休むこと自体に気を使います。子どもの体調不良や家族の事情があっても言い出しにくい。そういう職場では、働き続けることが負担になります。
賃金水準は人員確保に直結する
採用に効果があった取り組みとしては、「賃金水準の向上」が1位になっています。これも現場と経営の両方を見てきた立場から、大きいと感じます。
賃金が低いと、応募が集まりにくくなります。応募が集まらなければ、人手不足が続きます。人手不足が続けば、今いる職員の負担が増えます。
つまり、賃金水準は今働いている職員の給料だけの問題ではありません。採用できるか、人員に余裕を持てるか、職員が休みやすいかという部分にもつながっています。
余裕がない職場では人間関係も悪くなりやすい
人手不足の職場では、職員一人ひとりの負担が大きくなります。送迎、入浴、排泄介助、記録、家族対応、レクリエーションなど、やることが多い中で余裕がなくなります。
余裕がない状態では、言い方がきつくなったり、ちょっとしたミスに強く反応したりしやすくなります。本来なら落ち着いて話せることでも、忙しさの中で職員同士の関係が悪くなることがあります。
そう考えると、人間関係の問題は、人の性格だけで起きているとは限りません。人手不足、休みにくさ、賃金の低さなど、職場環境の問題が背景にあることも多いです。
職員に使える財源の差が職場環境の差につながる
介護職員として現場を見たときと、管理者や法人の役員として見ときでは、見えるものが違いました。現場では「人が足りない」「給料を上げてほしい」と感じますが、経営側から見ると、そこには介護報酬の仕組みも関係してきます。
介護事業は、一般的な商売のように、好きな価格でサービスを売って利益を増やせる仕事ではありません。介護保険制度の中で、決められた報酬をもとに運営しています。
介護報酬は事業所の努力だけで大きく増やせない
介護事業所は、自治体から指定を受けて運営しています。財源には介護保険や税金が使われており、サービスごとの報酬は国の制度で定められています。
利用者に満足してもらう努力をすることは大切です。ただ、利用者満足度が上がったからといって、事業所が自由に料金を上げられるわけではありません。
そのため、職員の給料を上げる、人員を増やす、職場環境を良くするためには、決められた収入の中でどう配分するかが重要になります。
職員に使えるお金があるかで現場の余裕が変わる
賃金水準の向上というと、職員一人ひとりの給料を上げる話に見えるかもしれません。しかし、経営側から見ると、それだけではありません。
会社が職員に対してどれだけお金を使えるか。今いる職員の給料を上乗せできるのか。新しい職員を雇えるのか。その判断が、現場の余裕に直結します。
人員が増えれば、休みも取りやすくなります。休みが取りやすくなれば、職員のストレスも減ります。職員のストレスが減れば、職場の人間関係も悪くなりにくくなります。これは現場で見ていても強く感じていました。
加算をきちんと取る姿勢も職場環境に表れる
介護報酬の基本部分は、事業所の努力だけで自由に増やすことはできません。そのため、取れる加算をきちんと整備して申請することが大切になります。
僕自身も、少しでも職員に回せる財源を確保するために、取れる加算は会社として整備して申請していくようにしていました。処遇改善に関わる加算などは、その代表的なものです。
もちろん、すべての事業所が同じように申請できているわけではありません。そこには会社の考え方や、体制整備への姿勢が出ます。小さな差に見えても、積み重なると職場環境の差になります。
介護職を続けるなら自分に合う職場を選ぶことが大切
介護職の離職理由を考えるときに、「人間関係が1位」という言葉だけで判断してしまうのは危険です。人間関係で辞める人がいるのは事実ですが、辞める理由はそれだけではありません。
調査データだけで介護職全体を判断しない
「介護職は人間関係で辞める人が多い」というデータだけを見て、介護職そのものを判断するのは早いと思います。そもそもこの調査は、介護職を辞めた人全員に聞いたものではありません。今も介護職として働いている人の回答が中心になるため、データに偏りが出るのは事実です。
もちろん、調査結果を無視する必要はありません。人間関係が離職理由として上位に出ていることは事実です。ただ、その数字だけで「介護職は人間関係が悪い仕事」と決めつけるのではなく、どのような前提で取られたデータなのかを見たうえで受け取ることが大切です。
仕事内容と職場環境の両方を見る
これから介護職を始めたい人は、まず介護職という仕事内容をしっかり理解しておく必要があります。排泄介助や身体介助など、実際に現場に入ってみないと分かりにくい大変さもあります。人間関係だけを気にしていると、仕事そのものの大変さを見落としてしまうことがあります。
そのうえで、介護職を長く続けるためには、介護職という一つのくくりだけで見るのではなく、働く職場の環境も見ることが大切です。職員の働きやすさを大事にしている職場なのか、人手不足を放置していないか、休みやすい体制があるか、賃金改善などにも前向きに取り組んでいるか。そうした部分を見たうえで職場を選ぶことが、入職後の働きやすさにつながります。
自分に合う職場を選ぶことが長く続ける近道
介護職を長く続けたいと思っている人は、「人間関係が大変そう」という言葉だけに振り回されない方がいいでしょう。大切なのは、介護職の仕事内容を理解し、自分がどのような環境で働くのかを見ておくことです。
介護職を離職する理由は、介護職そのものが合わないからだけではなく、その職場の環境が合っていない場合もあると思っています。働く環境を大事にしている職場に変わることで、同じ介護職でも働きやすさが大きく変わることがあります。
人間関係という言葉だけで介護職を判断しないこと。仕事内容を理解し、職場環境を見たうえで、自分に合う場所を選ぶこと。それが介護職を長く続けていくためには、とても重要だと思います。