介護職員の離職理由「人間関係1位」は本当?データの前提と現場の実態【介護職歴15年の統括マネージャーが解説】

デイサービス介護職人転職理由

介護職員の離職理由として、「人間関係が1位」と言われることがあります。実際に、介護労働実態調査でも、直前の介護関係の仕事を辞めた理由として「職場の人間関係に問題があったため」が最も高い結果として出ています。

ただ、この結果だけを見て「介護職員は人間関係で辞める仕事」と考えるのは誤解があると思っています。この記事では、調査データの見方と、現場・管理者・統括マネージャーとして見てきた介護職員の離職理由の実態を分けて考えていきます。

参考:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」

目次

介護職員の離職理由は「人間関係が1位」は本当か

介護職員の離職理由として、「職場の人間関係」はよく取り上げられます。介護の仕事に興味がある人でも、この話を聞くと「やっぱり介護職は人間関係が大変なのか」と不安になるかもしれません。

まずは、その見方がどこから来ているのかを確認します。人間関係で辞める人がいるのは事実ですが、「人間関係が1位」という結果だけでは見えてこない離職理由もあります。

介護職は人間関係で辞めると言われやすい

介護職員は、利用者と関わるだけでなく、職員同士で連携しながら働く仕事です。介護職員や相談員、看護職、機能訓練指導員、管理者など、職種や立場の異なる人と日常的にコミュニケーションを取る必要があります。

人との関わりを避けられない仕事だけに、言葉の伝え方や受け取り方の違いから関係がぎこちなくなれば、働きにくさにもつながります。人間関係が離職理由として挙げられやすいのも理解できますし、実際に人間関係を理由に辞める人も見てきました。

ただ、僕が現場や管理者の立場で見てきた中では、人間関係を理由に辞める人が最も多かったという実感はありません。人間関係で辞める人がいることと、それが介護職員に最も多い離職理由であることは、同じではありません。

調査データでは職場の人間関係が1位になっている

公益財団法人介護労働安定センターの令和6年度「介護労働実態調査」では、直前の仕事が介護関係だった人の退職理由として、「職場の人間関係に問題があったため」が最も高くなっています。

この結果だけを見ると、「介護職員は人間関係で辞める人が多い」と受け取るのは自然です。データとしてそう出ている以上、その見方が完全に間違っているわけではありません。

ただ、この調査を見るときに大事なのは、誰に聞いたアンケートなのかという部分です。どのような前提で取られたデータなのかを確認しないまま読むと、介護職員の離職を人間関係だけで捉えてしまいます。

介護労働実態調査は「誰に聞いているか」が重要

介護労働実態調査は、介護業界を知るうえで参考になる資料です。ただ、離職理由を見るときは、調査を回答している人を確認する必要があります。ここを飛ばしてしまうと、「介護職を辞めた人全体の声」として認識してしまいます。

回答しているのは現在も介護職員として働いている人

このアンケートは、辞めた人本人に直接送られているわけではありません。まず介護事業所に調査の案内が届き、そこから現在その事業所で働いている職員にアンケートが渡される流れです。

つまり、回答しているのは、今も介護事業所で働いている人です。以前の職場で介護職員を辞めた経験があり、現在は再び介護職員として働いている人の回答になります。

ここが、この調査を見るうえでとても大事な前提です。前の職場は辞めたけれど、介護の仕事自体は続けている人に聞いているということです。

介護職員そのものが嫌で離れた人の声は入りにくい

介護職員そのものが合わないと感じて辞めた人は、その後に介護業界ではなく、別の仕事を選ぶことがあります。そうなると、現在の介護事業所で働いている職員に渡されるアンケートには答える機会がありません。

つまり、この調査には「前の職場は辞めたけれど、今も介護職員を続けている人」の声は入りやすい一方で、介護業界そのものから離れた人の声は入りらなくなります。

調査データの結果は「介護職員を辞めた人全員の理由」ではなく、今も介護職員として働いている人の回答として見る必要があります。

アンケートの仕組みを知らないと受け取り方を間違える

退職理由は、用意された選択肢の中から選ぶ形になります。病気や高齢、家族の介護や看護、定年や雇用契約終了、家族の転勤や事業所の移転など、いくつもの項目があります。

「その他」の記入欄もありますが、回答者の多くは、用意された選択肢の中から自分の退職理由に近い項目を選んだのではないでしょうか。

この仕組みを知らずに順位だけを見ると、「人間関係が1位だから、介護職の一番の問題は人間関係だ」と考えてしまいます。しかし実際には、誰に聞いたのか、どの選択肢から選んだのかまで見て判断する必要があります。

人間関係が1位になりやすいのは自然な流れ

今も介護職員として働いている人に、以前の介護職場を辞めた理由を聞けば、人間関係が上位に来るのは自然です。介護の仕事そのものは続けているため、退職理由も仕事の内容より、以前の職場に対する不満が中心になりやすいからです。

同じ仕事を続ける転職では人間関係が上位に出やすい

同じ仕事を続けたい人が前の職場を辞めた理由を答える場合、仕事そのものへの不満よりも、人間関係や収入、働き方、会社の方針など、その職場に関する問題が挙がりやすくなります。

これは介護職に限った傾向ではありません。どの業界でも、同じ職種や業種のまま別の職場へ転職した人に退職理由を聞けば、職場ごとに異なる人間関係や待遇、働き方などが上位に出るのは自然なことです。

そのため、「職場の人間関係に問題があった」が1位となった今回の結果も、このような人を対象にしたアンケートであれば自然な流れです。介護業界だけに、人間関係の問題が特別多いことを示す結果ではありません。

「自分に向かない仕事だった」が少なく見える理由

介護職という仕事が自分に向かないと感じた人ほど、その後も介護職員として働き続ける可能性は低くなります。実際に介護職を離れた人は、現在も介護職員として働く人を対象とした今回の調査には含まれません。

そのため、「自分に向かない仕事だったため」という回答が少ないのは自然です。この結果だけを見ると、介護職は多くの人に向いている仕事のように受け取るかもしれません。しかし実際には、介護職という仕事が自分に向かないと感じ、早期に辞める人もいます。

「他に良い職場があった」は退職理由になっていない

退職理由には、「他に良い仕事・職場があったため」という項目もあります。ただ、これは人間関係や収入などと同じ退職理由として、横並びに見るべき回答ではないと思っています。

他に良い職場があったということは、前の職場より良いと感じた部分があったということです。給料が高かったのであれば収入、休日が多かったのであれば休みが、前の職場を辞めた理由に関係しています。

つまり、「他に良い職場があった」だけでは、前の職場をなぜ辞めたのかは分かりません。この選択肢が用意されていることで、本来は収入や休日などを理由に辞めた人まで、「他に良い職場があった」と回答している可能性があります。

現場では人間関係を感じる前に辞める人もいる

ここからは、現場で見てきた話です。人間関係で辞める人がいる一方で、人間関係を感じる前に辞める人もいます。

特に未経験で介護の仕事に入った人の場合、最初に向き合うのは職員同士の関係ではなく、介護の仕事内容そのものです。

夜勤研修の途中で退職を申し出た新人職員

夜勤の仕事を研修していたときの話です。大学生の男性が夜勤のアルバイトに応募してきて、僕が一緒に入って仕事を教えることになりました。

介護の夜勤は、一般的な夜勤の仕事と比べると勤務時間が長めになることがあります。その分、1回あたりの給料は高くなりやすく、未経験でも応募してくる人はいます。

その男性と一緒に夜勤に入りましたが、日付が変わる前には「もう辞めます」と言われました。その日が初めての勤務で、働き始めてからまだ数時間しか経っていないタイミングでした。

僕は

「それでもいいけれど、せっかく来ているのだから、あとは僕がやるので一度最後まで見てみたらどうか。朝までいれば1日分の給料も出るし、電車が動いてから帰ればいいのではないか」

と伝えました。しかし、その職員は

「もう自分に介護が無理なのは分かりました。朝までいても意見は変わりません。ここで勤めることはないと思うので、できれば今帰らせてほしい」

と言われ、その場で退職という形になりました。

排泄介助など現場の現実で判断する人もいる

その職員が、なぜ数時間で辞めると判断したのかは本人にしか分かりません。ただ、その時点では、まだ身体介助で大きな肉体的負担がかかる段階までは教えていませんでした。

僕の推測になりますが、おそらく排泄介助の部分で無理だと判断したのではないかと思っています。普通に生活していれば、自分以外の人の排泄物を処理する機会はなかなかありません。

おむつ交換では、利用者が寝ている状態で介助を行います。肉体的な大変さもありますが、精神的な負担もあります。においもあります。初めてその場面に直面すれば、強く負担を感じる人がいても不思議ではありません。

もちろん、その男性が本当にそこを理由に辞めたかは分かりません。ただ、数時間の仕事内容の中で「これ以上続けることはできない」と判断する何かがあったのは間違いありません。

1日で辞める人は人間関係が理由とは考えにくい

夜勤の研修は何人もしてきました。数時間で辞めると言ったのはその男性だけでしたが、1日終わってから辞める人は、1人や2人ではありませんでした。

その夜勤体制は、基本的に1人体制でした。研修中は僕が教えていますが、他の職員との人間関係ができる前に辞めています。そう考えると、人間関係が理由とは考えにくいです。

このように、現場では人間関係以外の理由で辞めている人も見てきました。特に早期退職では、仕事内容そのものが合わなかった、思っていた仕事と違ったという理由が大きいと感じています。

介護職員の離職理由は人間関係だけでは語れない

人間関係で辞める人がいるのは事実です。しかし、それだけを強調しすぎると、介護職員の本当の大変さや向き不向きが見えにくくなります。

介護職は人手不足の業界なので、応募すれば採用されやすいと考える人もいます。しかし、採用されやすいことと、仕事が楽であることは別です。

介護職員は楽な仕事だと思って働き始めると長続きしにくい

介護職員は、やる気を持って学べば、未経験からでも働ける仕事です。特別な人にしかできない仕事だとは思っていません。

ただし、未経験から始めやすいことと、仕事が楽であることは別です。排泄介助や入浴介助、移乗介助、認知症の方への対応など、現場には実際に働いてみなければ分からない大変さがあります。

「人手不足だから簡単に採用されるだろう」「誰にでもできる仕事だろう」と考えて働き始めると、実際の仕事の大変さに耐えられず、早い段階で辞めてしまうことがあります。

早期退職では仕事内容そのものが理由になることも多い

採用されてから数日、数週間、数ヶ月で辞める人の中には、「自分には難しい」と言う人がいました。この「難しい」は、仕事を覚えられないという意味だけではありません。

介護という仕事そのものが思っていたより大変だった。身体的にも精神的にも、自分には続けられないと感じた。そういう意味での「難しい」です。

人間関係で悩むには、ある程度その職場で働く時間が必要です。早期に辞める人の中には、人間関係を感じる前に仕事そのものに向き合って辞める人もいます。

人間関係だけに注目すると本質を見落としやすい

「介護職員は人間関係が大変」とだけ考えると、転職を考えている人は「自分は人間関係なら大丈夫」と思う人もいるかもしれません。

しかし、介護職員で大事なのは人間関係だけではありません。仕事内容を理解しているか、排泄介助や身体介助を仕事として受け止められるか、勤務体制や職場の余裕を確認しているかも重要です。

介護職員を選ぶなら、調査結果の順位だけで判断せず、仕事の中身まで見ておく必要があります。そこを見ないと、入職してから「思っていた仕事と違った」と感じやすくなります。

本当に見るべきなのは職場環境と待遇

離職理由を考えるうえで、人間関係は確かに無視できません。ただ、現場で見ていると、職員同士の相性だけが原因ではなく、職場環境や待遇の悪さが人間関係に影響していることもあります。

休みが取りにくい、人手が足りない、給料が仕事内容に見合わない。こうした状態が続けば、職員は次第に余裕を失い、その余裕のなさが言葉や態度に表れ、職場の人間関係にも影響していきます。

休みやすさは職場の余裕を表す

職場定着に効果があった取り組みとして、「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が1位になっています。これは現場感覚としてもかなり近いです。

休みが取りやすい職場は、人員にある程度の余裕があります。誰かが休んでも、すぐに現場が回らなくなる状態ではありません。

常にギリギリの人数で回している職場では、休むこと自体に気を使います。子どもの体調不良や家族の事情があっても言い出しにくい。そういう職場では、働き続けることが負担になります。

賃金水準は人員確保に直結する

採用に効果があった取り組みとしては、「賃金水準の向上」が1位になっています。これも現場と経営の両方を見てきた立場から、大きいと感じます。

賃金が低いと、応募が集まりにくくなります。応募が集まらなければ、人手不足が続きます。人手不足が続けば、今いる職員の負担が増えます。

賃金水準は今働いている職員の給料だけの問題ではありません。採用できるか、人員に余裕を持てるか、職員が休みやすいかという部分にもつながっています。

余裕がない職場では人間関係も悪くなりやすい

人手不足の職場では、職員一人ひとりの負担が大きくなります。送迎、入浴、排泄介助、記録、家族対応、レクリエーションなど、限られた職員で多くの仕事に対応するため、気持ちにも時間にも余裕がなくなっていきます。

余裕がない状態が続けば、言い方がきつくなったり、ちょっとしたミスに強く反応したりすることもあります。本来なら落ち着いて話せることでも、忙しさから感情的になり、それが職員同士の関係に影響することがあります。

そう考えると、人間関係の問題は、職員同士の性格や相性だけで起きているとは限りません。人手不足や休みにくさ、賃金の低さなど、職場環境や待遇の問題が背景にあることも多いです。

職員に使える財源の差が職場環境の差につながる

介護職員として働いていたときと、管理者や法人の役員として見たときでは、見えるものが違います。現場では「人が足りない」「給料を上げてほしい」と感じますが、経営側から見ると、人員や給与には介護報酬の仕組みも関係してきます。

介護事業は、一般的な商売のように、事業者が自由に価格を決めて収益を増やせるものではありません。介護保険制度で定められた報酬をもとに運営されています。

介護報酬は事業所の努力だけで大きく増やせない

介護サービスの報酬は国の制度で定められており、事業所が自由に料金を決めることはできません。サービスの質を高め、利用者に満足してもらえたとしても、それを理由に料金を上げることはできない仕組みです。

収入を増やすには、利用者数を増やしたり、必要な加算を取得したりする必要があります。しかし、事業所には利用定員があるため、どれだけ努力しても売上には現実的な上限があります。

その限られた収入の中で、職員一人ひとりの給料を上げるのか人員を増やすのか職場環境の改善にお金を使うのかを考えなければなりません。どこにどれだけ配分するかは、事業所を運営するうえで非常に重要になります。

職員に使えるお金があるかで現場の余裕が変わる

職員に使えるお金が増えるというと、今いる職員の給料を上げる話を思い浮かべるかもしれません。しかし、事業所にとっては、新しい職員を雇うことも人件費の使い方の一つです。

そのお金を昇給に使うのか、新しい職員の採用に使うのかによって、現場の状況は変わります。人員を増やせれば、一人ひとりの負担が軽くなり、休みも取りやすくなります。

職員の負担やストレスが軽くなれば、現場にも気持ちにも余裕が生まれます。その余裕が、職場の雰囲気や人間関係にも影響することは、僕自身も現場で強く感じてきました。

加算の取得に取り組む姿勢が職場環境の差につながる

介護報酬の基本部分は、事業所の努力で自由に増やすことはできません。そのため、取得できる加算について必要な体制を整え、きちんと申請していくことが大切です。

僕自身も、少しでも職員に使える財源を確保するために、取得できる加算は会社として体制を整え、申請するようにしていました。処遇改善に関わる加算は、その代表的なものです。

しかし、すべての事業所が同じように加算を取得しているわけではありません。職員が同じように働いていても、会社が申請に必要な体制を整えるかどうかで、職員に使えるお金には差が生まれます。一つひとつの差は小さく見えても、積み重なれば職場環境の大きな差につながります。

人間関係だけで判断せず自分に合う職場を選ぶことが大切

介護職員の離職理由を考えるとき、「人間関係が1位」という言葉に目が向きがちです。人間関係を理由に辞める人がいるのは事実ですが、それも数ある離職理由の一つです。

「人間関係が1位」という数字だけで判断しない

「介護職員は人間関係で辞める人が多い」というデータを見ても、それだけで介護職は人間関係に問題がある仕事だとは言えません。そもそもこの調査は、介護職を辞めた人全員を対象にしたものではないからです。

人間関係が離職理由の上位に出ていることは事実です。ただ、「1位」という順位だけを切り取るのではなく、こうした調査の前提も含めて結果を見ることが大切です。

仕事内容と職場環境の両方を見る

これから介護職を始める人は、まず仕事内容をしっかり理解しておくことが大切です。排泄介助や身体介助など、実際に現場で働いて初めて分かる大変さもあります。人間関係だけに目を向けていると、仕事そのものの大変さを見落としてしまいます。

そのうえで、長く働くためには、職場環境も確認することが大切です。職員の働きやすさを考えているか、人手不足を放置していないか、処遇改善にも前向きに取り組んでいるか。こうした部分まで見て職場を選ぶことが、入職後の働きやすさにつながります。

自分に合う職場を選ぶことが長く続ける近道

介護職を考えるとき、人間関係を気にすること自体は間違いではありません。ただ、「人間関係が1位」という言葉だけに振り回されないことも大切です。介護の仕事そのものが合わない場合もあれば、働いた職場の環境が合わずに辞める人もいます。

まずは介護職の仕事内容を理解し、働きやすい環境を大事にしている職場かどうかを見る。そのうえで、自分に合う職場を選ぶことが、介護職員として長く働き続けるために最も大切なことだと思います。

目次